古写真が好きだ。
中学の頃に幕末写真の時代という本に出会ってから、日本の写真黎明期のものが好き。 やっぱり、鮮明で豊富な情報が詰まっているから、絵とはインパクトが違う。 浮世絵などでは分からない、生々しい人物や風景がそこにはある。 まずは簡単に写真史の勉強でも。 そんなに詳しくはない&結構はしょって書くので 誤解もあるかも。ご容赦。 ■ヘリオグラフィ フランス人ニセフォール・ニエプスが発明した最古の撮影技法。 新たな印刷技術の模索の末に発見。 光が当たると凝固する性質を持つ瀝青というアスファルトの一種を使う。 露出のために、8時間~20時間を要し、人物など、動くものを映すことは困難。 これは、ヘリオグラフィで撮られた「世界最古」の写真。 版画を写し取ったもの。 ■ダゲレオタイプ ニエプスとともに写真技術を研究していたフランス人画家ルイ・ジャック・マンデ・ダゲールが、 ニエプスの死後も研究を続け、発明。1839年システムの全容を公開。 銀メッキをして磨き上げた銅版の表面にヨウ化銀の膜をつくり、カメラに取り付け、露光。 光が当たってヨウ化銀が銀を作ることで像が記録される。 さらにそれを水銀水蒸気にさらすことで初めて、記録された像が、 目に見えるようになる(露光時に出来た銀の場所に水銀が作用し水銀アマルガムが形成されるため)。 さらに、この像を定着させるために初期は食塩水、後にチオ硫酸ナトリウムを用いる。 露光時間は初期で10~20分。 改良され、最速で1~2分程度 ■写真湿版 1851年 イギリス人のフレデリック・スコット・アーチャーが発明。 ヨウ化物を分散させたコロジオンを塗布した硝子版を硝酸銀溶液に浸し、湿っているうちに撮影。硫酸大一鉄溶液を用いて現像を行い、シアン化カリウム溶液で定着させてネガを得る。 露光時間はわずか5秒から15秒。 さらに1枚のネガから量産が可能となり、一気にダゲレオ・タイプを駆逐。 このあと、歴史的には写真乾版、フィルム・・・と続いていくのだが、ここでは割愛。 幕末期は、初期にダゲレオタイプが持ち込まれ、その後、独自に写真術を学んだ上野彦馬という 人物の主導もあって湿版が主流となっていきます。 では、このころ活躍した写真家とその写真を見て行きましょう。 ■上野彦馬 日本最初の写真家。 蘭学者の父の影響で、医学、化学を学ぶ。 その過程で湿版写真の技術を知り、写真術の研究へ。 1862年故郷長崎で、日本初となる写真館の営業を開始。 坂本竜馬・高杉晋作ら、幕末の志士の肖像を多く撮影した。 いくつか、印象的な写真をあげてみる。 清水寺周辺 熊本城 奥のちっちゃいのが熊本城。 日本人集合 上級武士と家族 大村藩30代藩主大村純煕とその家族。 純煕は明治2(1869)年の版籍奉還で藩知事、明治4(1871)年の廃藩置県で引退。 その直後、明治5年頃の撮影。 明治の軍人 幕臣 撮影年代、人物は未詳。 幕末のリアルタイムなものか、あるいは廃刀令以降、 サムライ姿を残しておこうという流行の中で明治期に撮られたもの、かも。 彦馬と家族 明治3~4年頃 右側に掛けているのが母・伊曾 左側が妻・むら 彦馬の横の4人は娘でこの、ちえ、ぬさ、にわ 2人の子供は、ちえの子で彦馬の孫にあたる 元次郎と娘・なか 彦馬の場合は、写真家のはしりだからか、「リアルな」写真を撮るんですよね。 あまり作られていない、生の表情を撮ろうとする。 後で紹介しますが、時代が下っていくと、どんどん商業的になっていって、 みやげ物としての嘘くさい日本像を押し出したものが多くなってくる。 しかしこの人がいなかったら、残ることのなかった幕末の人物たちの肖像というのも 多かったんだろうな。。。 次。 ■フェリックス・ベアト イギリス人。イギリスの植民地戦争(クリミヤ戦争、セポイの乱、アヘン戦争など)で報道写真を撮る。 横浜開港後、横浜外国人居留地に移り住み、写真館を開業。 横浜や江ノ島、鎌倉といった場所は当時から観光地として栄え、外国人がたくさん訪れていたそう。 そうした外国人に日本土産として日本の風俗や風景を撮影した写真の販売を始めたのが、 このF・ベアトという人物。 同様に印象的な写真をピックアップ。 ■横浜の運河と街並み 1865年9月7日撮影。 左手遠方には「岩亀楼内」の文字が読みとれる。横浜外国人居留地背後の太田屋新田沼地を埋め立てた太田町の裏町とされる。1866年の大火で消失、翌年遊郭は奥の吉田新田(新吉原仲之町)に移転する。 ■中津川と彦馬邸 1864年の撮影。 彦馬がここに写真館を開業して2年目となる年に撮影されている。 建物はまだ質素。 ■鎌倉大仏 どういうわけか、ベアトは多くの鎌倉大仏をとっている。 良く売れたのかな? ■鶴岡八幡宮 多くの観光客がいる。 が、おそらくこれらの人はモデル。 境内の様子はほとんどいまとかわらない。 もっとも境内の樹齢数百年のイチョウは 東原亜紀のデスブログによって、根元から倒れて果ててしまいましたが。 ■銀閣寺 ■金閣寺 当然、放火前の姿 ■八坂の塔 ■浅草寺 広重の江戸百景の中にも同じ構図の絵があり ベアトもこれに影響されたか ■東海道 江戸時代の街道にはこのように道の両脇に杉の木が植えられていた。 旅人はこの木陰で休憩しながら、旅を続けたという。 ベアトはこの街道の杉の木を珍しがり、多くの写真を撮っている。 こうした旧街道の風景は、箱根などに一部当時のままの姿で保存されている。 ■下関砲台占拠 1864年の馬関戦争時の写真。 1863年長州藩が攘夷実行の名目で、米英商船を砲撃。 英仏蘭米の4カ国に逆襲された戦争。 この敗戦で、欧米との差を痛感し、長州藩の思想は攘夷から一気に倒幕へと進むことになる。 ■鎌倉事件現場 1864年の馬関戦争の直後、鎌倉の八幡宮の前の4つ角でイギリス軍人、ボールドウィン少佐とバード中尉の2人が殺害された事件。 その現場の写真。 ■生麦事件現場 1862年、江戸から帰る途中の島津久光の大名行列に 観光で来日していたイギリス商人のリチャードソンら数名が、行列を横切り、薩摩藩士により殺傷された事件。 これがもとで後に薩英戦争が起きるが、戦争後はむしろ、薩摩とイギリスは接近し、強固な佐幕藩であった薩摩も急激に討幕へと傾いていくことの一因となった。 ※このあと、生首の写真があって割とショッキングなので 観たくない方はここで終了するか、超速で下まで移動してください。 清水清次さらし首 鎌倉事件の首謀者としてとらえられた清水清次は 斬首の末、さらされた。 その時、ベアトが撮影したもの。 清水については冤罪であるとの見方もある。 長崎のさらし首 江戸時代には間違いがないが、詳しい年は不明。 また、何の罪に問われたのかも不詳。 左端には、赤ん坊の磔もあることから、一族皆殺しにされるほどの重い罪だったことは想像できる。 ベアトの場合は、商業写真家としての側面と、報道カメラマンのはしりとしての側面を持っていますね。 どちらかというと報道カメラマンとしての側面が強いか。 割と多くの幕末の事件現場に立ち会っている。 この時代の日本で、全国各地を飛び回るっていうのは、いろんな面で大変だったろうと思うが・・・。 さて。さらに次。 ■日下部金兵衛 ベアトの弟子。 明治14年に横浜に写真館を開く。 外国人観光用写真として最も人気があった写真家。 では、また写真を。 ■明治天皇 1872年の撮影。 明治政府の政策として、強い大日本帝国を打ち出すために、軍服、髭を天皇に半ば強制させた。 もともと天皇は、化粧、お歯黒をし、女ことばを話すという風習があったが、これも廃止。 明治天皇自身は大の写真嫌いで有名。 ■昭憲皇太后 上の明治天皇とともに撮影。 明治天皇の皇后。 ■日本の風俗 作為的な、モデルを起用した写真。 商業的で、完全な「生」の日本ではない気がして、あんまり好きではないけど それでも、間違った情報ではないだろうから、当時を知るうえでは貴重。 ■名古屋城 空襲で燃え尽きたのは本当に悔やまれる。 ■二条城 いまも変わらず。 ■大坂城 ■富士山 多くの富士山の写真を残す。 周りの風景は変わっても、当然ながら富士山はずっと変わらない。 ベアトはそこまで富士山にこだわっていなかったが、日下部は膨大な量の富士山を撮っている。 日本人的で興味深い。 ■軽井沢と浅間山 ■金閣寺 ■法隆寺 このころも鹿がいる。 ■東大寺 ■横浜遠景 ■横浜外国人居留区 ■江の島 ■濃尾地震被災写真 明治24年に起きた濃尾地震の様子など、 天災による被災地も多く写真に残している。 報道写真として、新聞社に販売したのだろうか。 日下部の場合、商業的な写真が多く、このころには、写真が江戸時代の浮世絵のように みやげ物として売れていたことが分かる。 今回、載せた写真は長崎大学付属図書館のデータベースからお借りしました。 まだまだいっぱい面白い写真があります。 検索もしやすく素晴らしいデータベースなので覗いてみるとよろしいかと。 さて、以下に撮影者不明の写真をいくつか載せてみる。 ■八坂の塔 ■小田原城 ■野菜 ■二寧坂 ■清水寺 ■地蔵 ・・・。 なにかおかしいと感じませんか。 おかしいと感じた方。 するどい。 実はこれら作者不詳の写真・・・・ 何を隠そう。 現在の写真です。 つい先週くらいの姿で僕が撮った写真です。 本来の姿はこちら。 ■八坂の塔 八坂の塔 ■小田原城 小田原城 ■野菜 野菜 ■二寧坂 二寧坂 ■清水寺 清水寺 ■地蔵 地蔵 これ、幕末古写真ジェネレーターというサイトで、好きな写真を選択するだけで、こんな、幕末写真っぽいものにしてくれるというもの。 2008年くらいに公開されて、かなり話題だったとかで。 僕はさっぱり知らなかったんですが。これが面白くて。 これを紹介するために、こんなに長い長い投稿になってしまったでした。 疲れた。。。 ともかく、面白いので遊んでみては?? 元写真含め、先週京都に旅行に行った時の写真をflickrにアップしているのでそちらもよろしくです。 ではまた。
by jai-guru-deva
| 2010-04-21 01:57
| 今日知る旅行
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