昨日の記事の続きです。
さて、刀剣でかなり興奮してしまった僕ですが、ここは東博。たたみかけるようにここから怒濤の攻撃が始まりました。 各員、第二戦闘配備につけ! 僕の頭の中はワーニングサインが鳴り響きっぱなし。 すなわち、二階です。 まず、二階最初にして最大のインパクト。 国宝室です。 東博には国宝室という、ただ一点の国宝のみを展示するための部屋があります。 それは、東博に所蔵、または寄託を受けている国宝です。 一年に何度も会期替えがあります。 いま展示されているのは 伝藤原光能像 と言われてもピンと来ないかも。 けれど、誰もがおそらくは見たことがあるはずのもの。 例えば、みなさん、源頼朝の肖像画はご存知でしょう。 あの肖像と、平重盛の肖像画とともに京都・神護寺に伝わったというもの。 作者は似絵の名手といわれた藤原隆信。 藤原光能という人についてはほとんど経歴がわかりません。 というかそこまで目立ったことをしていないし。ただし、家は名家で、藤原道長の子、長家の血筋で、藤原北家に属するようです。 源頼朝については説明の必要はないでしょう。「いいくにつくろう鎌倉幕府」です。 鎌倉幕府初代将軍。武家政治の魁。以後源氏の姓は武士の憧れ。 余談ですがあの織田信長 は平氏の流れを汲むのだけど源姓を名乗ったということもあるし、秀吉に至っては、関白になったとき藤原秀吉 と名乗ってもいます(これは秀吉がむりやり摂関家の養子に入ったから)。 もうひとり、平重盛 は平清盛 の嫡子。 かなりできたようで、保元、平治の乱で活躍の以後、父に認められて、名実ともに清盛の後継者と目されるが、清盛に先立って41歳くらいで病没してしまいます。 清盛は重盛の死をいたく嘆いたといいます。 さて、伝藤原光能像 これを前にして、鳥肌がたちました。 まず、想像していたものよりずっと大きい。 ほぼ等身大の大きさ。 縦143.0センチメートル、横111.6センチメートル。 この絵は一枚の絵絹に描かれているようで、僧侶像や天皇像以外のいわゆる俗人の肖像画でこれだけ大きくて、しかも一枚の絵絹に描かれたものは他にないそうです。 少し色の剥落なんかが目立ちましたが、その緻密な線で描かれた顔の表現、衣冠束帯姿の威風堂々とした描写はまさに秀逸。そこはむしろ太い線でたっぷりと描き込んであります。 この絵と対峙したとき、人はみんな息を飲み、そして鳥肌が立つはず。 それはこの絵の威圧感がそうさせるのかも。目の前に本当に描かれた人がいるような不思議な感覚に陥ります。ある種のバーチャルリアリティ体験。2Dの世界でそう思わされるのもこの美術品のすごさなのでしょう。 それと国宝室という異質な空間もそうさせるのでしょうか? ただ、この絵については面白いはなしがあります。 むしろ藝術的価値よりもこっちのほうが有名な話かも。 この絵は「伝藤原光能像」といわれているけれど、これはあくまで「伝」。 正確な図像主がわかっていないのです。 江戸時代では、藤原成範 と全く別の人の像とされてきました。 さらにショッキングなのが「伝源頼朝像」 これです。 あれだけ歴史の教科書に出てきといて、違う人かよ! みたいな気持ちになりますよね。これも今の説では違う人ということになりつつあるそうで。 「伝平重盛像」 についてもしかり。 こういうやつです。 ではこの三人、ホントは誰?? いまの有力な説では以下の通りです。 源 頼朝→《足利直義像》 平 重盛→《足利尊氏像》 藤原光能→《足利義詮像》 足利直義 は尊氏の弟。はじめは兄の右腕として活躍し、兄から実権を譲られていたが、後に対立。 兄と争い、病没したとも兄に毒殺されたとも。 足利尊氏 はいわずとしれた初代室町幕府将軍。 もとの名を高氏。はじめ、鎌倉幕府の御家人として後醍醐天皇 ら倒幕派と争うが、天皇に歯向かうことをよしとしない高氏は天皇側に寝返り、京都の六波羅探題、つづいて鎌倉幕府を滅ぼしてしまう。 そのときの活躍により、後醍醐天皇の諱、尊治から「尊」の字を与えられて、以後「尊氏」 となる。 けれど、後醍醐天皇は次第に尊氏も目障りになってきたため、ふたりは反目していく。 尊氏は意思に反して、天皇側と争うことになり、やがて南朝と北朝ができて、日本において唯一、朝廷が二つあるという混乱の時代がやってくることになる。 このことから、戦前まで、足利尊氏は朝敵のレッテルを貼られてたまま、史上最低の悪人として歴史に残ってしまいました。 幕末期には尊皇攘夷派によって、尊氏、義詮、義満室町幕府三代の木像の首が逆賊として三条河原に晒されたりもしました。 反して、当時の悪人、 楠木正成は、後醍醐天皇に最期まで付き従ったことから、楠公としていまだに忠臣の象徴であり、皇居に銅像がたっている程です。 けれど尊氏自身本当は尊皇の人で、後醍醐天皇に弓引くことをいつも後悔していたそうです。 もらった「尊」の字を後醍醐天皇に剥奪されたあとも、ずっと「尊氏」と表記していたようですし。 いまでは評価も客観的に行われるようになたのでようやく汚名返上、名誉挽回。古い体制を打破した改革者的な感じで評価されているようです。 足利義詮 は尊氏の嫡子。はじめ、叔父である直義が実権を握っていたので自身は鎌倉の政庁に勤務。 しかし直義が父尊氏と争うようになると、京都に呼び戻され、以後は後継として政務を執る。 やがて尊氏死後二代将軍となったが南北朝の混乱の中でまさに東奔西走。 しかし幼い義満に後を託して38歳の若さで病死している。南北朝の統一は義満の成長を待たねばならない。 とまあこんな感じです。 太平記の時代も調べるとかなり面白いです。 さて肝心の根拠ですが。 以前授業で習ったことを受け売りしてみると、 ●纓(後から垂れる部分)が上から冠部分に挿入するのは鎌倉後期以降 ●1枚の大絹に描くのは鎌倉末期以降 ●1345年足利直義が神護寺に尊氏・直義像を奉納 『足利直義願文』 ●1349年頃《夢窓疎石像》の目鼻口耳など細部の描き方が似ること その他、等持院霊光殿尊氏・木像などとの肖像との類似 などという点が指摘されているようです。 >等持院霊光殿尊氏・木像などとの肖像との類似 しかしこれはすごいな(笑) 似てるからって。 はいはいはい、まあまあまあね(笑) そういわれればね。 反論として ●13C前半の制作説 ・俗人の大画面肖像画は13C前半まで、14Cにない ・顔や強装束の輪無唐草紋の裏彩色など古風で重厚な彩色 ・纓の描き方は13C前《紫式部日記絵巻》などと共通性 ・3像の装束の官職・位階など従来説にはよく、足利氏の場合には矛盾 ・毛抜型太刀は鎌倉時代に形骸化するため、鎌倉初期のほうが合致 みたいです。 源 頼朝 平 重盛 藤原光能 というあまりに脈絡ないならびよりも 足利直義 足利尊氏 足利義詮 こっちのが素人目に納得できる気もします。 追記として、一般に足利尊氏像といわれるさんばら髪の騎馬武者の絵は尊氏説は今ではほぼ完全に否定されているようです。 これですね。 かなりかっこいいんですが。 さて次。 次は尾形光琳 の風神雷神図屏風 俵屋宗達 のほうじゃありません。あっちは国宝だけど、こっちは重文です。 というか宗達の絵の模写ですね。模写であっても光琳らしさはなくなってません。 宗達のほうのを見ようと、以前京都の建仁寺にいったのですが、公開してなくて見えませんでした。 その次に江戸の粋ということで、「浮世絵と衣装」という展示をみました。 これも僕好みの企画。 とにかく江戸の遊女萌えな僕にとって、江戸時代のファッションをリードした遊女たちを中心にした展示はとても楽しかったですよ。 浮世絵はもちろん(去年、浮世絵の授業でたくさん本物を手に取ってみることがあったので浮世絵についての属性もついてしまった)、遊女たちの使っていた櫛やら髪飾りやら、とても可愛くて今でも使えそうなものばかりでした。 あとは、今年新たに国宝、重文指定されたものの展示室も面白かったです。 沖縄県のものでは初めて国宝に指定された琉球王室、尚氏の女性の服やら、王の冠やらがありましたが、沖縄産の国宝ってなかったんですね!意外でした。 もともと日本とは違う文化形成をしてきた土地だけに、認定が難しいのでしょうか?それとも太平洋戦争の傷跡が文化財にもおよんでいるのでしょうか。いや、確実に及んでいるんでしょう。 本土も空爆で様々な文化財が焼失しているんだし。 そのことを思うと、腹立たしくもあり、やるせなくなってしまいます。 まだまだ書きたいことはいっぱいあったけれど、自分の目で確かめるのがいちばんですね。 どうやらナスカ展は友達と行った方が楽しそうだし、今回は東博満足でした。 ちなみに、国宝「伝藤原光能像」は5月7日までです。ゴールデンウィーク中でも常設展はそんな多くないのでダッシュ! あと、次の企画展は プライスコレクション 「若冲と江戸絵画」展 です。 行くしかありません。 死んでしまう可能性があります。
by jai-guru-deva
| 2006-04-30 17:41
| 今日知る芸術
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